■ホッパーが誤解していた「マシンセッティング」

追記:最後に記載していた小菅さんの電話番号が古いものでしたので更新しました。ご迷惑おかけして申し訳ありません。
■良くある先入観
2スト85ccのモトクロッサーに対して持っているイメージってなんですか。「ピーキー」、「前後バランスがシビア」、「高回転キープ」、「キッズが乗るとめっちゃ速い」。この辺が良くある回答だと思います。俺がHERO'S開幕参戦用にお借りしたYZ85LWも、やはりそんなマシンでした。高回転をキープしていればすごいパワーで走ってくれる(アッという間に腕上がりするくらいに)。しかし、それができない者にとっては、突然パワーが出る扱いにくいジャジャ馬マシン、という印象になる。俺がまさにそう。だが、2スト85ccとは元来こういうものだと聞いていたし、自分でもそう思い込んでいたから、マシンの特性に合わせようと必死でしがみつくように乗っていた。結果、コントロール不能な状態に何度か陥って怪我をしたりもした。残ったのはコントロールできなくなった時の恐怖感だけ。それでも、本番前に少しでも慣熟しておきたかったので、レース前週の平日に有給休暇をとって練習に行った。本番で周りにバイクがたくさんいる中で、おっかない思いをしながらレースするなんて楽しくなさそうだったから。誘ってくださったのは、憧れの雑誌であるDIRTCOOL誌面でおなじみのスチャラ加藤さんと榎本塾1号生青木さん、そして神ラマンの柴田さん。それだけでも浮き足だってしまうところなのですが(しかもTEAM DIRTCOOLステッカーもらってしまった! 恐れ多くて名乗れません貼れません)、そこで俺は衝撃的な出会い&体験をすることになったのです。
■K'es小菅さんとの出会い
練習に行くと、青木さんのマシンをいじってる人がいました。これまたDIRTCOOL読者にはメカチク担当でおなじみのK'es小菅メカです。一見すると非常にべらんめぇな感じの方で、青木さんと加藤さんのマシンをあーだこーだと口悪く指示しながらセッティングしています。俺は当然小菅さんに見てもらう程何かが分かるワケでもないので、ひとりでヨチヨチと練習していました。ところが、しばらく走ってパドックに戻ると、近くを通りがかった小菅さんがサラリと一言。
「それ、乗りにくいんじゃないかい?」
正直、固まってしまいました。どう返答したらいいか分からない。壊れてる感じはないし、ちゃんと走る。乗りにくい、というより乗れてないだけのこと。マシンというよりも俺の問題だ。
「いや……どうなんでしょうか……乗り……やすくは……ないのかな……」
そう答えるのがやっとでした。すると小菅さんはスロットルを大きく開けたり小さく開けたりして何かを感じ始めた。俺がすげー音にビビっていると。
「クリップを一段変えてみな」
ここでまた固まる。えーと、クリップ? 自分のも借りたのも、あるがままの状態で乗ってきた俺は自分でセッティングをいじったことなんてほとんどない。柴田さんに手伝ってもらいつつ、クリップの位置を変えてキャブを再装着。今度は小菅さんがマイナスドライバーを持ってキャブを調整する。で、またパイーンパイーン。何が変わったのか俺には分からない。
「乗ってきてみ」
言われるがままに走り出す。すぐに違いが分かった。上の方にかたまって積み上げられていたパワーのブロックが、真ん中と下の方に分配された感じ。これまで、ピャッと加速するかしないかの瀬戸際で開けられないでいたジャンプの登り斜面が急に怖くなくなった。明らかに乗りやすい。少なくとも俺には。
このYZのホントの持ち主は上手なライダーなので、高回転をキープして乗ることができる。だからそうセッティングしてあったのだ。しかし、それができない俺には小菅さんが施した、たぶん若干ヘボめなセッティングの方が乗りやすいというワケなんだろう。そのかわり、回転があがると頭打ちしたような感じになって伸びなくなった。でも、早めにシフトアップすればいいか、ぐらいにしか思わなかった。
「どうだい?」
パドックに戻って小菅さんにすごく乗りやすくなったことを報告した。しかし、回転の伸びがなくなったことは言わなかった。なぜか。なんか言いにくかったのだ。せっかくいじってくれて、気持ち良く乗れるようにしてくれたのにホンの少しのネガを言わなくてもいいじゃん。たぶん、こんな風に思っていた。特に小菅さんも聞いてこなかったし。で、急に安全に走れるようになったので、その後もヨチヨチと練習にいそしんでいた。すると、そんなやりとりも忘れかけた頃、休憩している俺の横を通りがかった小菅さんがこう言った。
「セッティング変えたことでなんか悪くなったとこはないかい?」
ガツンと脳天に一撃くらった気分だった。俺の浅はかな、そして意味のない遠慮なんかすべてお見通しなのだ。たぶん通りがかったんじゃなく、俺が言ってこないからタイミングを見て言いにきてくれたのだ。あくまでさりげなく。急に恥ずかしくなった俺は、嘘がバレた小学生のようにペラペラと正直に告白した。
「そうだよなぁ」
そうして小菅さんはメインジェットを変更するように言った。持ってなかったのでさらにセッティングを詰めることはできなかったんだけど、俺は俺レベルのライダーにさえ、絶妙な距離感を保ってアドバイスしてくれたことに密かに感動してしまった。あのタイミングはこれまで何十、何百? とライダーを見てきた小菅さんの経験則からくるものなのだろうと思った。
その後、HERO'S開幕戦の当日にも小菅さんは俺の走りを見ていてくれたようで、直前になって「フロントフォークの突き出しを5mm多くしてみな」とアドバイスしてくれた。練習走行も終わって、もうあと予選・本番しかないって時にだよ? 確信がなきゃ言えないことだと思った。だからすぐにやった。信頼、としかいいようがない。
ここでひとつエピソードを紹介。TEAM DIRTCOOLの青木さんは、知らぬ間に上手くなっていったライダーらしく、腕は段違いでも、サンデーライダーとしての気持ちの部分では俺とかとあまり変わらない。いつも「ひえええ、無理ですよ~」という感じで、開幕戦も当然ノービスエントリー。しかし、小菅さんは自信たっぷりに言っていた。
「だーいじょうぶだよ。お前のニーゴーくらいスタートで前に出れるバイクがエントリーしてくることなんてありえないから」
青木さんのバイクは特別な改造はされていない。セッティングオンリー。俺はそういう小菅さんの横で内心、「えっらい吹いちゃうおじさんだな~」と思っていたが、ノービス予選でのホールショットと、それにより昇格させられたミドルヒート1でのホールショットを目撃して、小菅さんがそうだと言ったら、掛け値なしにそうなのだと確信した。
話を戻そう。さらに小菅さんがちょいちょいとコンプレッションをいじっていたが、何をどうしたのかまでは分からない。恐らく加速もブレーキングもメリハリがない俺のためのセッティングだったんだろう。コーナーでの旋回性が上がっていた。そして俺はほとんど怖い思いをすることなくレースを終え、なんとなく満足のいく結果を残すことができたのだ。
■俺たちにこそセッティングは必要だった
セッティングとは何か。俺は、自分の走りが分析できるくらいレベルの高いライダーが、より極限の走りをするために施す微調整だと思ってました。でもそうじゃなかった。上手な人は多少セッティングがあってなくたって、乗りこなしてしまう。むしろ、俺みたいな初心者にこそセッティングは必要だったのだ。
海外をメインターゲットに開発されているモトクロッサーのノーマルセッティング。これは、身長180cm・体重75kgのライダーを想定して決められたりしているそうな。もちろんキャブセッティングも日本国内の気候や標高を基準に決められているものじゃない。言葉が生み出す安心感から、とにかくメーカーノーマルセッティングが一番! と崇拝しても実は意味がない。神様は外の国を見ておられるのだ。
今回の一件で、俺はすべてのバイクショップにはセッティングスタッフが必要だと思った。これは日本の病院に専門の麻酔医がいない問題に似ているかも知れない。お客のことを知り最適なセッティングを出す技術は、バイクを売ったり治したりするのとは違う特殊なスキルだ。もし、すべてのレベルのライダーがセッティングがちゃんとあったバイクに乗ることができたら、きっと今よりももっと怪我だって少なくなると思う。または、メーカーがノーマルセッティングのベースを、地域やライダーにあわせて複数出してくれるだけで多少は違うかも知れない。
後からいろんな人に話を聞いたが、残念なことに小菅さんほどのメカニックというのは少ないらしい(ロードの世界で有名なキャブ仙人・永冶司さんくらい?)。しかし、幸運なことに、どんなレベルのライダーでもK'esの門を叩けば、小菅さんにバイクのセッティングを見てもらうことができる(前後サスのセッティング料金をちらっと聞いたが、とても高額と言える値段じゃなかった)。かつて、CR PRO RACINGでワークスと互角に渡りあい、増田一将や戸田蔵人(他にもたくさんいる)、最近では山本鯨や木下隼人といったトップドッグの面倒を見てきたプロ中のプロからアドバイスを受けることができる。こんなマンガに出てくる凄腕メカみたいな人がいるんだなー、と感動できること請け合いです。自分の何がダメで上手くいかないのか分からない人、もしかしたらそれはあなたのバイクのセッティングがあってないだけなのかも知れませんよ!
■K'es
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