■BAJA CHICKEN 第10羽 「万難を排する、ということ・中編」

■スーパーなんたらレーシング?
セヌー「ここだな」
ホッパー「ですね……(ゴクリ)」
仕事帰りのサラリーマンが行きかう夕暮れ時の有楽町、微妙な緊張感を漂わせ俺とセヌーさんはとあるビルの前に来ていた。JR有楽町駅前にあるイトシア、ここの13~15階に品川近視クリニック銀座院はある。俺は結局悩んだ末、セヌーさんから持ちかけられていた「近視矯正手術」の誘いに乗ることにしたのだ。今日はその事前検査日だ。
「近視矯正手術」というのは、レーザー照射などにより直接眼球の角膜を矯正し、光の屈折率を変えることで視力を回復させる治療方法。さまざまな方式があるようだが、現在最も一般的なのが「LASIK(レーシック)」という術式だ。今回俺たちが受けようとしているのはそのレーシックをさらに進化させた「スーパーイントラレーシック」という手術で、マイクロケラトームを使った従来のレーシックと違い、コンピュータ制御のイントラレースFS60レーザーを使用することでより安全確実にフラップを作成、術後の感染症・副作用などの心配もなくなり、さらにレーシックでは不可能だった強度近視の矯正も可能となっている(コピペ)。まさに夢の近視治療技術なのだ。
■見つめあーうー角膜にレーザービームをー
もちろんセヌーさんから話を持ちかけられる前から近視矯正手術の存在は知っていたが、漠然と「なんか怖い」という先入観しか持っていなかった。だって……目にレーザーて……。だいたいレーザーの枕言葉といえば「殺人」とか「岩石破壊」というイメージ。理由は分からないけどとにかく怖い。しかも、品川近視クリニックのWebサイトには手術の内容についてこんな解説がアップされていた。
「当院で使用しているエキシマレーザーはWavelight社製の最新エキシマレーザーであるAllegretto Shinagawa Edition(アレグレット品川仕様)を使用しています。眼球の光線回旋予防システムが搭載されて、更に正確な照射が行なえ、かつ角膜形状を正確に測定する機器とのリンクが可能になり、再施術などの特殊症例への治療にも対応しています」
アレグレット品川!? 誰!? ていうかエキシマレーザーってもしかして、シュトラール軍の無人ホバー戦車ナッツロッカーに対抗するために、連合軍がS.A.F.S.(2885年ロールアウト以降)に搭載したエクサイマーレーザーガンのことか!?(←お母さんにガンダム見せてもらえなかった分立派なパワードスーツ系オタクに成長) そんなの目に当てて本当に大丈夫なのだろうか……。
■なにげに多かったレーシック経験者
失敗はもちろん、数年後に突然見えなくなったりしないのか? という誰もが考える不安も当然あった。俺が初めてレーシックを知ったのはもう10年くらい前で、その時もタクシーの中にあった広告を見て同じことを感じた記憶がある。しかし、技術は格段に進歩しているだろうし、なによりその後「あのレーシックってのはヤバイらしいよ」という話も聞かない。無駄にインターネットだけは見ている俺だから、そういう騒ぎがあればどこかで見かけていてもおかしくないハズだ。
さらにあちこち相談したりしているうちに、実は意外と自分の周囲に近視矯正手術の経験者が多いことを知った。プロテックスポーツの石井さんや、いつもHERO'Sで一緒になるナラハラさんやロビー・山田・レイナード。さらに会社の同じ部署内にふたり、となりの部署にも数人。一流プロスポーツ選手をはじめ、ロードやモトクロスライダーたちの中にも経験者が結構な数いるらしい。そして、とりあえず身近なところでは失敗したとか、あとからトラブルが出たという話はなかった。
どうやら俺の知らない間に近視矯正手術は「保険のきかないなんだか怪しい治療法」というイメージ(まぁ俺が勝手に作りあげたものだけど)から脱却していたようだ。とはいえ、今も国内の医療保険は適用されていない。いったいいくらぐらいかかるのか。BAJA貯金さえ難航しているというのに、これ以上無駄な出費をすることはできない。
■曜日割&クーポン券利用でお値段はズバリ……!
セヌーさんの話では品川近視クリニックには紹介システムが用意されており、手術を経験すると1万5000円分の割引クーポン券をもらえるとのこと。しかも、そのクーポン券を使って病院にひとり紹介するごとに、本人には3万円キャッシュバックされるんだそうだ。頑張って何人も紹介して、自分の手術代をペイしちゃってる人も少なくないとか。おいおい、大丈夫なのかよそのマウジーなシステムw。
そしてなんと、今回クーポン券をくださったセヌーさんの心優しいお友達がそのキャッシュバック分までこっちに回してくれるとのこと! てことは、曜日割(日~金までに手術するとちょっと安い)+紹介クーポン割価格17万3000円からさらに3万円を引いて……お値段14万3000円也(経験者がいなくてもふたりいれば事前に紹介会員になってお互いを紹介することで14万8000円で手術できる)。これくらいならギリギリなんとかなる……いやホントはならないんだけど、最も重要な感覚器官である目のトラブルを心配しなくて済むなら安いのではないかと思う。なんにしてもセヌーさんのお友達ありがとうございます!!! ペイフォワード魂はがっちり受け継いだので、俺も知り合いに紹介する時はキャッシュバック分を渡そうと思う。
■品川近視クリニック、謎の美女軍団
事前検査は平日の夕方だったので会社を早退して駅でセヌーさんと待ち合わせた。セヌーさんは自営業なのでいつでも受けられたのだが、俺がひとりだと心細かったので一緒の時間にしてもらったのだ。できれば手術も同じ日にしたい……。なお、手術へのプロセスは下記のようになっており、すべて完全予約制。病院側のスケジュールさえ空いていればSTEP1からSTEP3まで、思いついてから一週間以内に完了することもできる(ただし、普段コンタクトレンズを使っている方は、ソフトなら検査一週間前、ハードなら二週間前から装着を止めなければならない。検査から手術まで間があく場合はしててもいいみたいだけど、やっぱり手術日の一週間または二週間前には装着をやめないといけない模様)。
STEP.1 事前検診(2~3時間程度、麻酔をかけるため直後の運転禁止)
↓
STEP.2 手術(2時間程度、もちろん術後の運転は無理)
↓
STEP.3 翌日検診(1時間程度、状態により運転可能)
↓
STEP.4 一週間後検診(1時間程度、運転可能)
俺は15階の品川近視クリニック受付・検査フロアに着いて驚いた。そこには、とても明るくて清潔感に溢れた空間が広がっていた。さらに、働く女性スタッフがみな一様に美人揃い。いや本当に不自然なくらい可愛い子が多い(俺は2005年に閉店した談話室滝沢の女性スタッフたちのことを思い出していた)。できることなら就職したいとさえ思った。とにかく、俺が想像していた近視矯正手術の現場はもっとこうディック……いやもっと安っちくシャドウランっぽい世界観というかなんというか、緑色がかった冷たい手術室や怪しい器具を構えて「ヒヒヒヒヒ」と笑う医者をどこか期待していた。現実はずっとつまらない。
驚いたことがもうひとつ。それは、患者がとにかく多いこと。大盛況なのだ。学生、OL、主婦にリーマン、GALとオッサンが大きな待合室でひしめき合い、名前を呼ばれた順に次々別部屋へと移動していく。普通の総合病院の光景と変わらない。改めて近視矯正手術が(俺の知らぬ間に)市民権を得たことを感じた瞬間だった。そこにいる人たちは発達したテクノロジーの恩恵を当たり前のように享受して生活する、なんだか俺とは違う「進んだ人々」に見えた。セヌーさんはどうだったか分からないけど、俺はメガロポリスステーションにたどり着いた鉄郎の気分だった。やっぱりバイク乗りはアナログ人間なのだ。
緊張しつつしばらく待っていると女の子の担当がやってきてセヌーさんの名前を呼び、続けて男性スタッフが俺の名前を呼んだ。チェンジのアピールも虚しくとなりの大部屋に連れられて行くと、そこにはたくさんの検査機械が並んでいる。先に入ったセヌーさんは巨大な体を小さく丸めてすでになんらかの機械を覗き込んでいた。

■複雑な検査
並んでいるのは例外なく覗き込むタイプの検査器具で、スタッフ側のモニターに検査の結果が表示されているようだった(盗み見たが意味がわからんかった)。四種類ほどの機械でいろいろ測られた。角膜の屈折率や曲率、形状、さらに角膜内部の細胞数まで分かるそうだ。眼圧を測るための機械では覗いた穴から空気の玉みたいなのが目ン玉の中央に射出されるもんだから、しがみついたまま思わずピクッピクッ! と反応してしまった。おかげで何度かやり直しとなった。激しくカッコ悪い。これに反応しないでおれるヤツはいるのだろうか。
振り返るとセヌーさんはまだ角膜の形状測定をする機械の前で首を傾げていた。何か問題でもあったのだろうか。しかし、待っているワケにもいかない。眼圧測定が終わると今度は視力測定用の部屋へ移動、おなじみのC型マーク(ランドルト環と言うそうだ)が並んだボードを見てちょっとホッとする。まずマイメガネをした状態、さらに専用のフレームに数種類のレンズを入れたり外したりしながら視力を測定していく。俺はマークの向きを記憶しないようにするので必死。測定を終えると男性スタッフが「かなり適正なレンズを使用されてますね」と感心したように言っていた。俺がメガネを作ったオードビー上野店の仕事はどうやら確からしい。

視力測定を終えると今度は真っ暗な部屋に連れて行かれた。そこにもまた覗き込むタイプの機械が並んでおり、時折何かの目薬をさされながら(これが異常に上手い)さらに複雑な検査を受けていく。内容については飽きてきたこともあってほとんど把握していない。詳しくはこちらのページに書いてあるので興味のある人は見てほしい。
セヌーさんはやっぱり追いついてこない。
■ホッパー、目を触られる
暗い部屋を出るとそこにはまた待合室があり、たくさんの人が何かを待っていた。座っていると名前が呼ばれ、スタッフが来て「麻酔しますねー」と言いつつ目薬をさした。さらに麻酔が効くまでの時間を活用して、パーテーションで区切られた小部屋で手術当日の注意事項などを聞く。もう半分以上眠くなっていたので「ハイハイ」と話を聞きつつ、最後に渡されたアンケート用紙に目を落とす頃にはすでに文字にピントを合わせることは不可能だった。これでどうアンケートに答えろと。
席に戻ってアンケート用紙と格闘していると、暗い部屋の出口にようやくセヌーさんが姿を現した。聞けば、日本人離れしたセヌーさんの顔の骨格(彫り深すぎ)が検査の邪魔をした模様。いざという時に地元メキヤンのふりができるセヌーさんはいいなぁ、とか思っていると診察室に呼ばれる。中は2畳くらいの狭い部屋でベッドが置いてあった。女性スタッフに促され靴を脱いで横になる。狭い部屋にふたりきり。なんか楽しいことが始まるのか、と期待していた俺に彼女が言ったのは恐ろしいひとことだった。
「じゃあこれから角膜厚を測りますので目を触りますねー」
即座に「嫌です」と言おうとしたが、すでに彼女は何か先のとがったものを片手に俺におおいかぶさっていた。ぎゃああああ(←心の声)。目を触られて嫌がらない犬はいない。「この○×△▽(聞き取れず)で目の表面に触れるとこちらの機械からピピピピという音が聞こえますのでー(ピピピピ)」……いやちょっともう鳴ってるんですけど! 「はい、もう触れてますよー。そのままで動かないでくださいー」。もう、触れてる??? どうやら麻酔が効いているせいで、目の表面を触られても痛くないらしい。確かに眼球を覆うように存在する何かをコツコツと触られているような感触だけがある。まったく痛くもかゆくもないのだけど、俺は「目を触られている」という事実だけで汗ばみ、硬直してまったく動けず、半べそ状態になってボロボロと泣いていた。「大丈夫ですかー?」。んなわきゃないだろ。
■検査終了、しかし……
すっかり陵辱されてボロボロになった俺が最後に案内されたのは眼科医の診察室だった。そこで、角膜の形状、厚みなどの状態や細胞の数も問題なく、手術にあたって何ら障害がないことを説明された。ここまで一方的に検査されまくってきたが、ようやく質問タイムが設けられたので俺はここぞとばかりに疑問に思っていたことをぶつけまくった。先生はひとつひとつ丁寧に答えていく。質問が尽きてきた俺は「もうやるしかないんだ」と覚悟を決めた。
「それでは来週木曜日の夕方5時40分からとなります。お車は運転できなくなりますのでうんぬんかぬん」
受付のおねいさんから手術日当日の説明を受けていると、診察室から出てくるセヌーさんの姿が見えた。セヌーさんもあの恐ろしい小部屋で目をいじられてきたんだな、怖かったろう、悔しかったろう、泣きたかったろう(←オマエは泣いてただろ)、と思い戦友を見るような目つきになる俺。あとはもう覚悟を決めてふたりで手術を受けよう。一緒ならやれるさ。
しかし、俺を見つけて近づいてきたセヌーさんが言ったのは予想もしない言葉だった。(つづく)