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2008年07月04日

■BAJA CHICKEN 第33羽 「05/31 チキンたちの一番長い日(4)」

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前回はコチラ。なんとかサミットを乗り越えRM160ラグナ・サラダに到着! ひとり仲間を待つ心細い状況の中、人の優しさが身に沁みる。やがてやってきた4輪軍団に恐れおののいていたその時、セヌーさん&コッツの乗るTUNDRAが地平線の彼方に姿を現した。



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■行かなきゃならない時

TUNDRAが停車してセヌーさんとコッツが降りてきた。わりー、ヌエボすっ飛ばしちゃったヨ……と言うと、それよりもお前の体は大丈夫なのかと心配してくれた。正直平気だったので「うん、大丈夫そうです」と得意のハニワフェイスで棒読みすると、例によってセヌーさん苦笑。いやいや、大変なところではちゃんと大変な顔してましたよ? 今は平気だし会えて嬉しいからイマイチ伝わらないけどw。俺を見つけたのはやはりGPSが決め手だった。日本にいる友達に片っ端から電話をかけて(日本時間だと夜中の3時)、起きていたホッシーさんにPCを見てもらったらしい。「どれくらい待った?」と聞くから1時間ちょいと答えると、さっそく乗る準備をし始めた。オイオイオイオイ、指大丈夫なの? 俺まだ走れるよ? すると「うん、大丈夫」とセヌーさん。コッツがすかさず「大丈夫じゃねーだろ」と突っ込み入れても黙々と準備を続けている。さらにコッツが「10分でもいいから寝てくれー」と懇願しても聞かず。どうなってんだ?

「ここから元のプランに戻そう。次の交替ポイントはマイクスロードの入り口RM230付近な。ボレゴの先にMag7がある。俺に何かあったと思ったらそこを当たるように」

そう言ってセヌーさんは走り去って行った。チェイスカーに乗り込み5号線へのダートを走り始めると、我慢できなくなったコッツがしゃべり始めた。「ホッパーには言うなって言われてたけど、セヌーさん親指両方とも骨折してるみたいだよ……」「え……マジで……」「しかも、前の晩にほとんど眠れてなかったみたいで、かなり消耗してるはず。行かせるにしたって、ちょっとでも寝かせてからにするべきだったんだよ」「つかなんでそんな状態で行ったんだあの人!」「……ホッパーがサミットを越えたからじゃないか?」「………」。沈黙。俺の走りにセヌーさんはボロボロの体でこたえようとしている。明らかに無茶だけど。しかし、行かなきゃならん時があるということも理解できる。5号線に入ってからは、セヌーさんを行かせたことについてコッツと口論に。そんな時だった。

「そうは言っても何かあったら!(パタパタパタパタ)」「リタイヤになるとしても、行く時は行くしかねーべ!(パタパタパタパタ)」「たった10分が何で待てないん……(パタパタパタパタ)……ちょっと待て、何この音?(パタパタパタ)」「ん? (パタパタパタ)……なんかタイヤのあたりから聞こえるな」「まさかパンクじゃね?(パタパタパタパタ)」「マジかよ。ちょっと路肩に止めるわ」

右側が無理そうだったので、道の左側のダートにはみ出すようにしてTUNDRAを寄せようとしたその時! 「ズボオオオォォッ!」と言う音と共に左前タイヤが埋もれた。見た目硬そうに見えた土は実はかなり柔らかいサンドだったのだ。やばい。すぐに抜け出そうとしたが完全にハマっていた。前後にゆすったり、タイヤの前に枝をかませたりするが効果ナシ。低速トルクがあるように見せかけるFIマッピングのおかげもあって後輪が空しく穴を掘り続ける。TUNDRAはかなりの角度で傾いており、左側の運転席にあがるにもひと苦労という状態だ。マズイマズイマズイぜ。こんなところでスタックしている暇はないんだ! ヌエボを通り過ぎた時の100倍焦っていた。

「止まってくれーーーーー!!!」。コッツが偶然通りがかった1台の乗用車を全力で止めようとしていた。その車は300mくらい行き過ぎたあと、わざわざUターンして戻ってきてくれた。乗っていたのは10代とおぼしきメキシコ人の若者たち。運転していた男の子が手近にあったロープをTUNDRAのフロントフックに引っ掛けて乗用車で引っ張ってくれる。が、あっけなくロープが千切れた。重過ぎるんだこのデカブツ……。この光景を見たアメリカ人ドライバーがまた一人止まってくれた。トランクから極太のバリスティックナイロンケーブルみたいなのを取り出して投げてよこす。何度か息をあわせてアクセルを踏むと……で、出た!!! ふー。腰抜けそう。メキシコ人の若者たちとアメリカ人に礼を言い、5号線を再び走り出した時にはパタパタする音も止んでおり、俺とコッツも言い合っていたことなんかすっかり忘れていた。

boregonite.jpg▲ボレゴを通過する時に撮った1枚。まだこの頃はサポートチームがたくさんいた。

■マイクスロード入り口にて

3号線に入りボレゴを通過、マイクスロードの入り口へ車を走らせていると、国道沿いに走るレースコースが見える。一直線に続くサンドフープスをトロフィートラックやバギーが爆走していた。たまに見える2輪は路肩に寄って、嵐が過ぎ去るのを待っている。セヌーさんが気がかりになった。マイクスロードの入り口に到着すると、すぐにレーシングスタンドと看板をコース脇に立てる。コッツも椅子を取り出して通過車両のゼッケンをメモし始めていた。通過するのは圧倒的に4輪が多い。たまにATVがいるくらいで2輪はほぼ皆無。もはやセヌーさんが来るのを知る参考にならないのは明白だった。

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「ステカステカ」と繰り返しながらチームを渡り歩いている数人の少年たちにバハチキステッカーを渡す。コッツは隣にいたビートルのサポートチームにもあげて喜ばれていた。椅子に座って遠くに連なるマイクスの山を見つめた。到着してからすでにかなりの時間が経過している。次々と撤退していく周囲のサポートチーム。セヌーさんはあとどれくらいで来るだろうか。1時間? それとも2時間? まったく想像がつかない。トラブルなく走っていればもう来てもいい頃のはずだった。……おかしい。というか、良く考えたら来れるはずないんじゃないか? やはりボレゴで待つべきだったんじゃないか? そう考え始めたらいてもたってもいられなくなった。

コッツに声をかけて車を出す。レーシングスタンドの看板だけ目印にコースサイドに置いていった。トリニダッド村のあたりで確か携帯電話の電波が入るはずだ、とTUNDRAをエンセナダ方向へ走らせる。狭い山道をぶっ飛ばししていくと、コッツが隣で緊張しているのが伝わってくる。それでもアクセルはゆるめられなかった。トリニダッドまではまだだいぶあったがコッツが「電波入ってる!」と叫んだ。すぐに国道を降りて土の広場で車を入れる。まずはセヌーさんが連絡を取っていたホッシーさんに連絡だ。「コッツ、セヌーさんの携帯で発信履歴見てくれ」「えーと、えーと」「あー、もういいや、セヌーさんのでかけるから!(セヌー注:オイ)」

ホッシーさんは叩き起こされてからずっと起きてくれていたようで数回のコールで出た。「オラー!(←スペイン語の挨拶)」「どもどもホッパーです。急いでるんで用件だけ言います。GPSマップ上で257xのいる場所を教えてください」「お、えーとね……ここ数時間140マイルで止まったっきりだよ」「え……?」 俺がセヌーさんと交替したのはレースマイル160だ、それはありえない。「えっと、じゃあ266xはどこですか?」「266xはもうずっと先で380マイル近くにいるよ」「それは合ってそうだな…そしたら251xは?」「251xは40マイルからずっと動かない」「……分かりましたありがとうございます!」

251xジョニ男を俺はRM83で見送っている。これもおかしい。誰かもう一人確認する必要がある。俺は今度は自分の携帯で成田まで見送りに来てくれていた集(つどい)乗りの友達に電話した。ヤツは一晩中起きてウォッチしていた。「おいえ! どうよ!」「セヌーさんを見失ってる。257xの現在地を教えてくれい」「えっとね、ずーっと140マイルから動いてないよ?」「251xは?」「えーっとね、251xは40マイルから動いてない。どったの?」「オーケーさんきゅー、詳しいことは今度話す!」 GPSユニットの故障かイリトラのサイトが壊れてるのか分からないが、これでGPSのトラッキングデータがもうアテにならないことは決まった。コッツが資料袋の中をあさって日本国内にいる時に作った関係者連絡網のプリントアウトを取り出した。「Mag7に直接電話して聞いてみよう」

書かれているMag7の代表番号はなぜか携帯電話番号だった。コッツが電話をすると、相手が出た。「もしもし、聞こえますか? もしもーし!」 相手の電波も相当悪いみたいだ。「あなたはBAJAにいるんですか? えっ?」「Mag7の無線周波数を教えて欲しい。うん。うん。オーケー分かった」「それと我々は257xに関する情報を探している。何か聞いてないか?」「は!? 聞こえない。257xはどこにいる?」「なにそれ、それはリタイヤしたってこと?」「もしもーし! ……切れた」 再びかけるが電話は繋がらなかった。コッツの話ではMag7の代表者はBAJAのどこかのピットにいるらしい。「なんかさ……最後にBreak downって言葉が聞こえたような気がするんだよね……ここにいる、みたいな感じにも聞こえた……」「……よし、とにかくボレゴの手前にあるMag7に行ってみよう!」「うん」

山道をぶっ飛ばして戻る。コッツは電話で聞いた周波数に無線を合わせひたすら呼びかけていた。車載のアンテナは出力が弱く、届いているかどうかも分からない。それでも呼び続けていると「…ザッ……ザザッ」とかすかに応答があった。ボレゴ手前のMag7にはどんどん近づいている。ハンドルを握る手に力が入る。マイクス入り口近くでついに聞き取れる音声が帰ってきた。コッツが必死に聞き取りながら応答する。俺は車を止めて、プロテック看板を回収に走る。……が、置いたはずの場所に見当たらなかった。「あれ?」 あたりを見まわすと、近くの地面にバキバキに折れたスチロール製の看板が転がっており、その横に見事にぺっちゃんこになったレーサースタンド、いや元レーサースタンドだった金属の板が落ちていた。「……」。こんなん踏んだ方もタダじゃすまねぇだろ、いったいどんな車だよ……と呆れつついちおう残骸を回収。車に乗り込むと無線のマイクを持ったままコッツが言った。「セヌーさん、Mag7かボレゴのあたりにいるみたい!」

■チェックポイント2

140km/hで走ってても道がえんえん真っ直ぐなせいかスピード感がない。気ばかり焦る。コッツは途切れ途切れの無線でより詳しい情報を入手しようとしていた。「セヌーさん、やっぱ倒れて止まってるっぽいな……」「コッツ、セヌーさんの状況が酷かったらレースは終わりにしよう」「うん」 もうレースがどうこうと言うより、セヌーさんを見つけられればいい、真剣にそう思っていた。Mag7が見えたのでテントのそばに車をとめると、さっきからずーっと無線でギャーギャー言ってた連中が来たぞ! とばかりにすぐにクルーが飛び出してきた。コッツがクルーに取り囲まれてふんふんと話を聞く。「チェックポイント2にいて仲間を待ってるって!」「よし、行こう!」

再びTUNDRAに飛び乗ってボレゴへ向かう。夕暮れ時を迎えたBAJAの大地が、この世のものとは思えない美しい景色を作り出している。ボレゴまでもうすぐというその時、道の右側に広がる荒野の真ん中にぽつんと1台のバイクがとまっているのが見えた。流れる景色の中に消えてしまったが、確かにヤマハのバイクだった。「セヌーさんだ……セヌーさんが目印に置いていったんだ……」 ボレゴに到着すると、コースとの交差ポイントをVターンで右折してコース脇を走る。このあたりの路面はサンドで、油断すると一発でスタックしそうな雰囲気だ。誰だ、フルサイズピックアップがダートでの走破性抜群って書いたのは! 俺だ! こんな重いのが走るワケねぇよ!

叫びながらスピードを落とさないように無理やり走っていくとチェックポイント2のテントが見えた。「あった!」 止めたら発進が大変そうだったが、構わず止めて車から飛び降りる。Mag7の連中が無線で知らせてくれていたようで、これまたすぐにクルーが飛び出してきて、もっと先に止まっている真っ赤なアンビュランス(救急車)を指差した。砂地で足がもつれそうになりながらコッツと走る。近くまで行くと、アンビュランスの陰に誰かがいるのが分かった。車を回り込む。そこにいたのは……。




























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「よぅ……」 キャストを付けられた方の左手をあげてセヌーさんが笑っていた。一瞬前まで心配でしょうがなかった俺は、急に面白くなってカメラでバシャバシャとセヌーさんを撮りまくってやった。コッツも力が抜けたのか近くの砂の上に座り込んだ。俺たちの出会いが面白かったのか、アンビュランスの中から騒ぎを聞きつけて出てきた看護婦さんが携帯を取り出して撮影し始めた。「日本人みたいだな……」。なんとも奇妙な光景だった。そのあと看護婦さんは俺たちにグミをくれた。まぶした砂糖の甘さとグミの酸っぱさに現実感が戻る。

なんでもセヌーさんはRM160からボレゴまでの40マイルでバギーに2回轢かれ、全開前転クラッシュを数回食らった模様。途中で親指がハンドルをキープできなくなったため、観戦していたメキやんに両手をコの字型にしてガムテでぐるぐる巻きにしてもらいなんとか走ってきたらしい。しかし、さすがにチェックポイント2でその姿を見咎められ「なんだその手は、オマエどうなってんだ」とバイクから降ろされるw。SCOREのオフィシャルがリタイヤを了承する署名を迫るも断固拒否、リストバンドを切ろうとするのも断固拒否。いい加減向こうが折れて「わかった、リタイヤはしなくていいから、頼むからその手の治療だけはさせてくれ」と懇願してきたので、キャストだけは付けさせてやったらしい。その後、目印用にバイクを移動し、Mag7に無線で自分がここにいることを伝言するように伝え、あとは俺とコッツが自分を見つけ出すことを信じて眠りについたのだ。なんつー男だ、と思った。

kurumanokage.jpg▲目印にしていたバイクをゲットして戻ってきたところ。

「ここまで良く頑張ったよ……俺もセヌーさんが見つけられただけで満足だわ。なーコッツ」「ホントホント」「……ホッパー、体はどうなの?」「俺? 俺は平気平気。いやー面白かったわー」 セヌーさんはゆっくりと立ち上がると、モトパンについた砂埃を払ってからこう言った。「……そうか。じゃあ、ライトをHIDと交換しようか」

( ゚д゚ )……何言ってんだこのおっさん。(つづく