■BAJA CHICKEN 第31羽 「05/31 チキンたちの一番長い日(2)」

■チェイス開始
セヌーさんを送り出し、街中を抜けて3号線へ出る。次の交替ポイントはRM80だ。快調に飛ばして行くと、前が急に詰まり始めた。先頭を地元のトラックが走っていた。チェイスカーはみな、山道だろうがガンガン追い越しをかける。すぐ後ろのサポートピックアップもゆーらゆーらとプレッシャーをかけてくる。追い越してまたしばらく走ると、今度は本格的な渋滞に捕まった。こんなところで? 反対車線をメキシコ警察のパトカーが追い越していく。事故か? だとしたらデカそうだ。オイオイ頼むぜ。

少しずつ進んで行くと渋滞の原因が事故ではなく、オンコースと国道がクロスする最初のポイントのせいだと分かった。レースの邪魔にならないよう、一台ずつオフィシャルがタイミングを見て通過させている。とその時、251xジョニ男が国道を左から右へ横切るのが一瞬だけ見えた。セヌーさんも来るかな、と期待したのだけどそれより先にクロスポイントを通過してしまった。嘘みたいに空いた国道を飛ばして行くと、右側に広がるブッシュのあちこちから土煙があがっているのが見えた。時折ひらけた場所でバイクとATVがチェイスしているのが見える。あの中にセヌーさんもいる。祈るような気持ちになった。
▲スタート直後。まだBAJAは朝もやに包まれている。(撮影:ムラカミさん)
Km78に到着。一番手前にサチョーチームの白ピックアップ号を見つけ、隣に車を滑りこませる。サチョーチームの運転手は今日から参加のサトーさんだ。アルミのレーシングスタンドにサチョーから借りた黄色いプロテック看板をガムテープで貼りつけ、分かりやすいようにコースサイドに置く。コッツはノートを取り出して、通過する車両のゼッケンと通過タイムをメモし始めた。これをやっておくと、次のポイントでも「○○○が来たからぼちぼち来るはず」など分かりやすい。また、仲間をロストした場合に、前後関係から抜いたであろう交替済みライダーを見つけ出して情報を入手するのにも役立つ。あちこちで同じようなことをやっているオジサンもいるそうだから、いざとなったら情報を交換することも出来る(まるまる信用はできないけど)。GPSだなんだとハイテク化されたとはいえBAJAはBAJA。やっぱり最後は人間なのだ。


RM44でサチョーと交替したばかりの唐沢さんが準備をしてコースサイドに立った。502xがこれからならセヌーさんが来るのはまだ当分先だな、と余裕コイてるとほどなくしてサチョーがやってきた(AM8:20)。唐沢さんと交替してすぐさまコースイン。スムース&ファースト。1分の差を争っているのだから当たり前か。サチョーに聞いたところによると、朝日の逆光が強い上にATVの巻き上げる土煙が物凄く、視界1メートル以下なんて状態はザラだという。俺たちも3号線を下ってくる時に体験したがBAJAの太陽光線の強さはハンパじゃない。完全にホワイトアウトしてしまい、太陽がどこらへんにあるかさえ分からなくなる。サチョークラスのライダーが「もうノロノロ運転だよ」というんだからよほどのことなのだ。「達者でナ~」と言い残して出発するサチョーたちを見送り、レーシングスタンドの上に立ってセヌーさんを待つ。俺よりもあとにスタートした266xナカムラさんが通過する。メットの中は余裕の表情だ。来るとしたらそろそろか?
しかし待てども来ず。ナカムラさんよりさらに後からスタートしているはずのATVが通過する。「こりゃなんかあったかなー……」。その時、別のサポートチームが音量を上げて流していたウェザーマンラジオの声に「Broken leg...」という単語が聞こえたような気がした(ウェザーマンというのはアクシデントや緊急のインフォメーションを一手に管理しているSCOREオフィシャルの無線おじさん。本名はボブ・スタインバーガーというらすい)。英語が分かるコッツにメモを取りつつウェザーマンラジオにも耳を傾けておくように言う。考えてみれば、セヌーさんにとってもBAJA参戦は13年ぶりなのだ。おまけにやっちゃったのは治りにくい親指な上、結局ここまでのコースだってプリランしていない。なんだか急に心配になってきた(←遅い)。
国道をMOPARチームのサポートカーがやってきて俺たちのチェイスカーの横にとめた。MOPARは4輪のチームだ(プリラン2日目にレスタウランテでステッカー交換をしたから良く覚えていた)。さらにJCRのデビル花輪さんも合流。なんで今頃こんなところに? なんでも、13x(JCRの若者コンビチーム)のファーストライダーが地元観戦客の車と衝突→鎖骨骨折してヘリで運ばれ、今はもう1人のライダーに交替して鬼の追い上げ中とのこと。いやはや。ほどなくして猛烈な勢いの13xがやってきてカウンターあてながらダート区間へ飛び込んでいった(花輪さんもそれを見届けてから出発)。さらに待っていると、1台のバイクが走ってくるのが見える。レーシックの威力を発揮してゼッケンを読み取る。ドス(2)……シンコ(5)……ウノエキス(1x)、ジョニ男だ! 手を振るとブンブンと振り返してくる。めっちゃ元気&楽しそうなのを見てちょっと気持ちが和んだ。
■最初のアクシデント
セヌーさんは「待つのがBAJA」と良く言っていた。こうなったらどっしり待つしかない。キャメルバッグの中のトリプルカーボを一口飲んで、周りを見回すと地元パトカーの横に突っ立っているメキ警官たちと目があった。スタンドの上でケツをフリフリしてやるとウケている。素朴www。と、そこへまたバイクが1台やってきた。ドス……シンコ……オチョシエテエキス! セヌーさんだ!! コッツに向かって「来たぞ!」と声をはりあげ、セヌーさんに手を振って合図する。様子がおかしい。右手で左手を指差して首を振っている。「やっちまった」というジェスチャーだ。あれ? プリランで痛めたのって右手の親指じゃなかったっけ? セヌーさんはそのままチェイスカーのそばまで走っていくと、バイクもろとも土の上に転がり落ちた。
▲253xに迫るたぶんまだ元気な頃のセヌーさん。
隣にいたMOPARのサポートチームが慌ててセヌーさんを抱き起こしてイスに座らせる。俺がチェイスカーのところへ駆け寄った時には、工具を取り出して跳ね上がったハンドガードをMOPARの連中が直し始めていた。動き早いw。「いや大丈夫大、丈夫だから! ありがとうありがとう! ていうか誰この人たちw」とセヌーさんも言ってるんだけど通じてない(まぁバイクごと倒れてくりゃ熱中症だと思うわな)。とりあえずMOPARのご厚意に甘えておいてセヌーさんに事情聴取。「どったの?」「ATVに轢かれた」「www。怪我は?」「左手の親指やった」。両手を見ると完全にダブルサムアップ状態w。後から聞いた話によると、やはり視界が悪い中を走っていたところに全開でやってきたATVが絡んでクラッシュ。ATVのホイールベースの間に横倒しのバイクがまんま挟まって動かなくなってしまい、ライダーを5人ほど止めてみんなでATVを持ち上げて外したそうだ。そんなんで良く人が無事だったな……。
「ホッパー……楽しんできて!」
ヘルメットをかぶろうとする俺に、セヌーさんがやけに清々しい顔で声をかけてきた。「おいえ!」 俺は、セヌーさんがレースペースで走れる状態じゃなくなったこと、いやもしかしたらもっと酷い状態になっているかも知れないことをこの一言で理解した。コッツがエアクリーナーカバーを外して中をチェック、バーパッドに次の20マイル区間のための指示ガムテープを貼り付ける。ガスを補充しようとするとセヌーさんが「すぐにMag7だから足さなくていいよ」と声をかけた。ん? ああそうだったっけ、じゃあとりあえずMag7を目指せばいいか、と思いバイクにまたがり、本当に親切なMOPARのみんなにお礼を言ってエンジンをかける。大丈夫、バイクはどこもなんともない。俺は右見て左見て右見て3号線を渡り、カラッカラに乾いたコースへ飛び出していった。
■帰ってきたァ!(おっことぬし様)
「BAJAに……帰ってこれたー!!!」
これが俺の最初の感想だった。プリランでぶっ飛んだ時は、今回の旅の期間中にバイクでBAJAを走れることはもうないと思っていたから喜びも大きい。RM83からは確かに走りやすい区間だった。道幅はところどころ広がったり、二股に分かれたりもするが基本的には狭い。割と固く引き締まった路面で走りやすいが、時折隠れ岩や道を横切るようにしてウォッシュアウトが現れる。アメリカのデザートを走ったことのある林道犯仲間(というか先輩)のサワダさんが言っていたことを思い出す。「道だけを見るのでなく、全体の地形を見る。すると自然とウォッシュアウトのある場所が分かるよ」。なるほど、コースサイドの植物が途切れているところには高い確率で大きな横溝があった。かなりボッコリへこんでいるので中途半端なスピードで行くと刺さりそうになる。勢いを保って飛び越したいところだがあえての急減速。いまさら遅い(セヌー注:ホントだよ)がチキンぶりを発揮する。
▲ほとんどひとり旅状態なので快調快調。
途中、1台KTMに抜かれただけでバイクはほとんど見なかった。あとはATVと抜きつ抜かれつしながら進む。ちょっと深いサンドでハンドルをとられそうになった時に痛むくらいで、腕が折れてるなんて思えないくらい調子は良かった。ただ、調子に乗っていると水分補給を忘れそうだったので、時折スピードを落として走りながらキャメルバックからトリプルカーボを吸い込む。飲む前は「乾いた」という自覚がなくても、飲んだ後に明らかに体を動かすのが楽になった。やっぱ水分補給重要だね。しかし、バイクへの補給は大丈夫か。俺はMag7がすぐに出てくるもんだと思って走っていたが、なかなか現れない。セヌーさんが出る直前に「Mag7の教えてくれたマイル数はかなり適当であてにならないw。でも"残り1マイル看板"が出てくるから大丈夫」と言ってたこともあり、この時はさほど心配していなかった。
急に不安になったのはまさしく「Mag7 1mile」の看板を見た時だった。あれ? ちょっと待てよ? 俺、前にMAP見て予習してた時「自分の担当区間にはMag7ないのかー残念だなー」って思ってなかったっけ? なんでMag7あるんだ?? 頭の上に大量のはてなマークを出しつつMag7にピットイン。冷えた水を飲み、ガスを補給してもらう。アメリカ人たちが「体は大丈夫か?」とか「お前の姉ちゃん美人か?」とか言ってるが正直頭に入ってこない。バイクをスタートさせてしばらくしてから、道の端に寄せて止めた。「………」。ホコリをグローブでふき取ってマイルメーターを見てみる。108マイル。コッツがバーパッドに貼ってくれたガムテープを見てみる。「替 RM103(20)」とある。んー……これはもしかして……。
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プリランの時、あんなに苦労してたどり着いたヌエボジャンクションをいつの間にかスルーしていた。なんたるアホ。セヌーさんが言っていた「すぐにMag7」はチームにとっての話だったのだ。ギャアアアア。もちろんレースコースを逆走することなど出来ない。「……」。見上げるとサミットへと続くガレた山道が伸びていた。(つづく)